陸竜と海竜はつがいとして神に創られた。
海竜は園殿を囲む海を、陸竜は園殿の地を、それぞれ守っていた。
あるとき陸竜は、美しい生き物を目にした。
それは人間の女で、イヴと呼ばれていた。
アダムが神に求めた、彼の二人目の伴侶だった。
陸竜はイヴに恋をしてしまった。
正直で嘘のつけない陸竜は苦しんだ末に、海竜にそれを打ち明けた。
陸竜にはわからなかったが、海竜はそれを聞いてイヴにたいへん嫉妬してしまう。
海竜は陸竜に、園殿の中央にイヴを誘いなさい、と提案する。
園殿の中央には二本の木がある。
それは生と死を司る柱でもあり、陸竜は天界からそれを厳重に守るようにと言われていた。
陸竜はそこに住んでいた。
他の生き物には不可侵の領域であるため、イヴをかどわかしても誰も気付かないだろう。
海竜は続けた。
死の木の下なら、神もそれに気づくまい、と。
その底の海竜の考えは、死のないエデンの死を司る木のもとなら、
イヴも死ぬかもしれないというものだった。
それを知らない陸竜は、海竜の提案を受け入れた。
陸竜はまんまとイヴを浚うことに成功した。
悪意もない純粋な陸竜を、誰も不信に思うことがなかったのだ。
陸竜はイヴと幸せに過ごせると思った。
そしてその夜、陸竜とイヴは死の木の下で行為に及ぶ。
こぼれた体液が根を濡らした。
陸竜とイヴが寝ている間に、死の木は目覚めて葉を茂らせ、あっという間に実を実らせた。
先に目覚めたイヴは、見たことのない実に目を輝かせ、
実をもいで、本来のつがいであるアダムのもとへ帰った。
陸竜が起きたときには全てが遅かった。
アダムとイヴは死を持つからだになり園殿を追放された。
そして陸竜は天の怒りを受け、角と四肢をもがれてしまった。
死の木は陸竜の血を吸い上げ、その実は赤く色を変えた。
命消えゆく陸竜の前に、銀の獅子が舞い降りた。
堕天した元・天使の長であるシュクルだった。
助けようとする堕天使に、しかし陸竜は首を横に振る。
自分が天の理から外れたために起こったこと、罰は当然だろうと。
しかし堕天使は諦めなかった。
人を自由に愛したために受ける罰に納得できない。
お前が自由に恋のできる一生をやり直せる機会を、私にくれ。
堕天使は陸竜の心臓を、死の木の実と同じ姿に変えて持ち帰った。
真っ赤なそれは、林檎によく似ていた。
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