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« 腐女子ねたメモ | 学ラン »

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学ラン

 「オトヒメ はね、そのままじゃ浦島が死ぬってわかってたよ」 

"かたる"先輩は厚いガラスを隔てた向こう側で淡く微笑んだ。 

「だから帰してあげた」 

水泡のように一瞬で、揺らぎに掻き消えそうな笑み。 

「でも、好きで好きでどうしようもなくて、呪ったんだ」 



人魚は見初めた相手を水底に引き擦り込むという。 


「君が来てくれて僕はとても嬉しい」 


皮膚が乾くと焼け死ぬ先輩。 


「だけど僕は君を殺したくないんだ」 


水中でしか見れない顔。 


「もう、こないほうがいい」 



****** 



呪われた魂が転生する箱庭があったという。 

魂を教育し、呪いを閉じ込める箱庭は 学校 の形をしていた。 

死ぬことを許されない『学生』たちは呪いを産まないために『男子』しか存在しない。 


だのに、どうしてか呪いのない新鮮な魂が迷い込んできた。 




規律が崩れた。 



****** 



先輩をはじめて見たとき、外界を遮断するような異様な姿に思わず息を呑んだ。 

学帽を目深にかぶり、襟元まできちんと閉められた学生服。 
それは他の生徒となんら変わりが無いのに、彼の頭はほとんどが厚く包帯で覆われていた。 
手には手袋。 
まったくといっていいほど隙間が無い。 

それは彼の醸す雰囲気も同様だった。 
手足は華奢で細長いが刺さるほどに安定していて、黒鉛の針が歩いているようだ。 

そして、誰も彼に話しかけない。 
彼も一言も声を発さない。 

誰も彼に触れない。 




月曜になると集会が開かれる。 

そのとき流れる美しい歌声が、深い地下の水槽の 
たった独りのための『教室』の底から聞こえるものだと、 
クラスメイトに教わった。 



かつて大量の人間を溺死させたという美しい声で 
死にもせず生きもしないこの学校で歌うことが彼の 
おそらく永遠に続く『学業』であった。 
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