「ふぅ、こんなものですか…」
片付けたばかりの部屋を見渡し、ひといきつく青年。
紅色の濃い茶髪に赤い瞳。端正な顔立ち。
すらりとした長身に、しっかりとした軸を感じる姿勢。
ゆったりと着こなした和装がよく似合う。
容姿端麗。美青年。
「ー…で済めば、いい人なんだけどなぁ」
「なんですか、銀杏(ギンナ)…」
青年は弟を振り返る。
銀杏は金髪の頭を気だるげにかきながら肩をすくめた。
「顔が良くてもさ、楓兄さん。
仕事もダラダラとしかやらないうえに女たらしと来ちゃ、性格良しとは言えないよ」
「作品は無理に搾ると蜜も枯れてしまいます。幹から滲むのを待って抽出するのが一番ですよ。
それに女たらしとは、人聞きが悪いですね。
美しいものは愛でるべきですし、いただけるものは拒まないだけです」
「兄さん…だからそれが悪いんだって…」
「そうですか?僕にはわかりませんねぇ」
首をかしげて微笑む楓。
逆に銀杏はがっくりと肩をおとした。
「心配だ…」
「生活なら全く困ってませんよ。2、3人同居人が増えたところで差し支えありません」
「その、これから来るっていう同居人が心配なんだよ」
「どうしてです?」
きょとんとした表情の楓。
年齢のわりにまるで無垢な振る舞いだ。
「いたいけな13歳の双子の兄弟だそうじゃない。
兄さんの悪い影響を受けなきゃいいけど…」
「そんなに信用できなんですか、僕が…」
「そりゃあそうさ」
ぐっと身をのりだし、銀杏はまくしたてた。
「秋葉家の跡取りの役目を弟に押し付け家を出て、現在は若き天才小説家として悠々自適に生活中。
責任という責任をすっぽかしながら世の中の荒波も知らずに生きてきたあなたが子供を預かるなんて…
寧ろどうやって小説書いてるのかわからないくらいだよ。そこのあたりは本当に天才」
まったく誉めてない。
「僕はちゃんと知ることは知ってますし、一通りのことは体験してますよ。
それに子供を預かるのはいい経験になります」
「はあ…」
笑顔を崩さず、始終穏やかな兄を見て、秋葉銀杏は再び呟いた。
「心配だ…」
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