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« あくま日誌 | あくま日誌語り »

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サイクロ

「ヒカリくん、指みせて?」
「ん?」
「指輪みたいの」
「ああ」

ヒカリは右手を差し出す。
中指には黄色い石のはめてある銀の指輪。
魔力を制御する魔法具だ。

「はずそうか?」
「あ、いいの。なくしたり壊しちゃったらいけないから」
「アカリがナックル代わりに使っても壊れない程度に頑丈だよ」

そう言ってヒカリは指輪をはずし、ヒナに渡した。

「ね、つけてみて…いいかな?」
「…いいよ」

うっすら笑むヒカリ。

「あれ?はいらない…
ヒカリくんの指ってどれだけ細いの!?
 小指すら無理なんだくど…!」
「ざーんねん」

ヒカリはヒナから指輪をとりあげ、親指にはめてみせた。

「おやゆ…!」
「僕専用に鋳造された魔法具だからね。僕しか指につけられないんだ。
僕の指ぴったりにサイズが調節されるから、小指にも親指にもはめられる」
「な、なんだ、そうなんだあ…」

自分の指が極太なのかと動揺していたヒナは胸をなでおろす。

「いつも中指につけてるよね。でもどれでも良いんだ?」
「指には意味があるからね、状況にあわせてる」
「意味?おとーさんゆび、おかーさんゆび、みたいな…かな?」

クスリと笑い、ヒカリはヒナの手をとった。

「親指は権威、権力、信念、指導力。
人差し指は導き、意志、開拓。
中指は先見の明、道しるべ。
薬指は精神、感性
小指は願いの成就、チャンス…」

ヒナの指をそれぞれ指しながら説明する。

「右手と左手にもそれぞれ意味があって、右手は権威や現実。左手は想念、信頼」
「ほぇー…」
「この指輪を媒介に魔法を使う上では意外と重要なんだ。
右手の中指は直感や行動を助けたり、霊感を強めて邪気を払うっていわれてる。
実際、中指からの光の矢は闇属性に効果があるし、命中率も高い」

ヒナは自分の両手の平をじっと見ながらうなずく。

「そうなんだ~。じゃあエンゲージリングにもそういう意味が関係してるのかな?」
「左手の薬指は絆を深める、愛の証、恋の成就…だったかな」
「そっか、ちゃんと意味があるんだ!うー、素敵だな~」
「君もそういうの憧れるんだ」
「ん、実は恋愛とかよくわかんないんだけどさ… でも、そういうの、好きだよ」
「そう。じゃ、これは僕から」

ヒカリは再びヒナの手をとる。
左手を。

「どうぞ、お嬢さん」
「…!」

指にちいさな輪をくぐらせ、軽く口付けた。

小指に、小さな花でつくった指輪。

「君の願いが叶いますように」
「あ、ありがとう…」

微笑むヒカリ。ヒナは思わず赤面する。

「薬指じゃなくて残念だったかな?」
「や、ちがっ…ええ!?」
「あはは。冗談だよ」
「も…ヒカリくんっ!」

ふくれてみせるヒナ。

「もー、おまじないに効力があるんなら、冗談で左手の薬指に指輪しちゃだめだよっ」
「はは。ま、それは大丈夫だね。冗談じゃなくてもつける予定ないし」
「え?」

「大事な人がいるから、ここには何もつけられない」

口はうっすら笑んでいるが、目は笑ってなかった。

「大事な…?」
「…誰だと思う?」

と、ヒカリは目をひからせた。

「誰だと思う…?」
「え…」

「教えないけど、ね」

ぽん、とヒナの頭を軽くたたいてヒカリはその場を離れた。


イタズラを思いついたような瞳。
同じ顔でも、アカリのしない顔。
青い瞳。


小指の花。





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